[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「SmaSTATION」をはじめ、18回忌に合わせてさまざまなところで松田優作の特集が組まれていた。
そこでふと、彼の作品をしっかり見ていないことに気付いたのだった。
もちろん『太陽にほえろ』や『探偵物語』は押さえている。しかしこれでは、「松田優作」の入門すらできていないのでは…。
そんな焦燥感にかられたボクは、TSUTAYAで『野獣死すべし』のDVDを手に取った。
1980年公開、大藪晴彦原作のハードボイルド・アクションだ。
人気blogランキングへ
松田優作が演じるのは、元通信社カメラマンの快楽殺人者・伊達邦彦という男。
大藪晴彦の描いた伊達のキャラクターは、文字通り“野獣”にふさわしいタフガイ100%。
しかし松田は、そのイメージを完全に覆す。
青白い表情に痩せた体、こけた頬。
もちろん、あえて松田はそうしたのである。
撮影に際して減量を敢行し、さらには奥歯を抜くことまでした。
生身の“狂気”が、どんな人間に宿るものかを喝破していたとしか思えない役作り。もちろん「サイコ・サスペンス」が生まれる以前の話である。
この『松田版・野獣死すべし』では大まかなストーリーラインこそ原作をなぞっていくが、ラストシーンが不明瞭だったりと、“物語”としての完成度はけっして高いとは言いがたい。
それでもなお強烈な印象を植え付けるのは、松田優作の演技があまりに際立っているからだ。
彼のそれは、もはや「演技」とすら呼べないほどに素晴らしい。完璧に「伊達邦彦」という人格を創造していた。
中でも銀行襲撃の共犯者・真田に恋人を射殺させた後、雷の轟く中で真田に語りかけるシーンは「鬼気迫る」という言葉でも足りないほど、美しく狂っていた。
伊達邦彦は初めて人を殺めて動揺する真田に向かい、優しく言う。
「不安はじき消えます」
まさか、セリフひとつで鳥肌が立つとは思わなかった。
言葉のトーンからタイミング、そして体勢まで、全てが完璧なまでに恐ろしいのだ。
映画中盤のこのシークエンスを引き金に、大殺戮劇は始まる。一度弾けた野獣の狂気は、その命が絶たれるまで収まることはない。
全編通して、名シーン、名ゼリフのオンパレード。
「リップ・ヴァン・ウィンクル」のくだりなんかは特に、誰かを相手に真似したいぐらいシビれる。
鑑賞後の充実感、もちろん満点。
「今まで“松田優作”という俳優の凄みを気付いていなかった自分って…」と思わされた大傑作だった。
しかしこれで、なんとなく松田優作への“入門”はできたような気がする。
次は『家族ゲーム』でも見るか。