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ニューギニア戦線を生き抜いた奥崎謙三は戦後、戦争責任を負うべき昭和天皇が誰からも罰せられず生き延びていることに激怒。「神軍平等兵」を名乗って過激な活動を展開するようになる。
1969年には昭和天皇にパチンコ玉を発射し、懲役1年6カ月。
1976年には天皇陛下一家の顔をコラージュしたポルノビラを銀座でまいて懲役1年2カ月。
さらに出所後は「田中角栄を殺す!」と物騒なフレーズが大書された車を乗り回し、殺人予備罪で送検されたりもしている。
そんなアナーキー極まりない彼を追ったドキュメンタリー映画が、この『ゆきゆきて、神軍』だ。
かつて所属していた連隊で、終戦後に隊長が部下を射殺したという事件を知った奥崎は、遺族を巻き込み真相究明に乗り出した――。
作品の大筋は、こんな感じで至って硬派なのである。
もちろんこういった活動はいいことだけれど、ネックになるのは奥崎謙三のキャラクターと行動だった。世の中の常識を軽く飛び越える彼の“電波”が、とにかく作品全編を覆っている。
オープニングから衝撃というか、違和感の連続。
結婚式の媒酌人を務め、挨拶するなりこれである。
「花婿の太田垣(?)さんは、神戸大学を卒業後に反体制活動をした咎により前科一犯でございます」
和やかだった式は、一転して鉛の空気に。それでもお構いなしの奥崎謙三は、自分が殺人、パチンコ事件、ポルノビラ事件の前科三犯と吹聴し、「花婿と媒酌人がともに前科者」と誇らしげに語ってしまうのだった。
こうなると、作品のメインである射殺事件の真相究明はさらに大変なことになる。
警官に囲まれては暴言を連発し、すでに老人になった元兵士をアポなし訪問しては、無理やり家に上がりこむ。
当然みなさん「昔のことだからなぁ」と簡単には喋らないけれど、奥崎謙三は口を割るまで問い詰める。それでも喋られなければ、ものすごい勢いで実力行使だ。
「貴様~!」と叫ぶや爺さんにつかみかかり、マウントパンチを叩き込みながら唖然とする家族に「110番しなさい!!」と連呼。
別のシーンでは自力で立てない爺さんに対し「天罰でこうなった」とヒドイ言葉を浴びせ、最終的にはストンピング連射。
これだけやっても、平然と「いい結果が出る暴力は許される」と言い放ってしまう。
まさしく「アナーキー」という言葉は、彼のためにあった。
実現はしなかったが、監督の原一男氏に「人を殺すシーンを撮ってくれ」と提案したエピソードも伝わっているほどに、無敵ぶりを発揮した奥崎謙三。
作品のフィナーレは、あまりにもショッキングだ。
これまで多くのドキュメンタリーは見てきたけれど、『ゆきゆきて、神軍』ほど見終わった後に放心できる作品はないと断言できる。
もし興味を持って観たいと思った人は、体調を整えてから再生ボタンを押すように。